○中田喜之、吉野貴晶、杉江利章(ニッセイマネジメント株式会社)
○関口海良、大澤幸生(東京大学)
背景
市場ベータは投資家が注目する指標値の一つで、銘柄と市場との関連性を示す。よって、市場ベータの高い銘柄が物色される具合は、そのまま投資家の市場の先行きに対する心理を反映したものになる。一方で、個別銘柄の直近のトレンドは直近の業績によるため、市場のトレンドから乖離している場合があり、そのようなトレンドの銘柄に対する物色は、市場全体と銘柄との相対的な先行きへの期待が反映される、らしい(本当かな...)。
よって、市場ベータとトレンドの特徴によって、株式市場の銘柄を分類し、領域ごとの物色の変化から株式市場の異常、具体的には市場全体の強い下落を検知する。
Graph-based Entropy(GBE)
GBEはデータの構造変化を検知するための定量的指標の一つで、大きいクラスターによってマップが占められていると小さくなり、小さいクラスターによってひしめき合っている場合は大きくなるらしい。
領域分割
前述の通り、市場ベータとトレンドの強さで判断する。
市場ベータ
市場ベータは銘柄のリターンを目的変数、株式インデックスのリターンを説明変数として回帰分析を行った時の回帰係数として算出される。
トレンドの強さ
トレンドの強さは以下の式で表現される。
ここで、はタイムステップにおける銘柄の価格。
急上昇した場合は正に大きい値に、急減少した場合は負に大きい値になる。
仮説
物色が均一だと大きいクラスターが多くGBEは小さい一方、偏りがあると小さいクラスターが増えてGBEが大きくなる。また、市場のトレンドの序盤から中盤にかけてはやはりGBEが小さいが、終盤はGBEが増大する。みんな物色を変えて偏ったりするかららしい。
トレンドについては、トレンドがプラスに大きい銘柄は下落トレンドに抵抗できるので、小さいクラスターができてGBEが増大する。
よって、以下のような仮説が考えられる。
- 全体のトレンドに鈍い低ベータ、かつ好調であるトレンドプラスの銘柄は、下落トレンドから外れる可能性が高く、GBEが上昇する
- 全体のトレンドに敏感な高ベーた、かつ不調のトレンドマイナスの銘柄は、下落トレンドから外れず、大きいクラスターが形成されてGBEが減少する
この辺を捉えれば下落トレンドを予測可能?
実験
2007年1月から2022年12月末までのデータを用いて予測してみたら、概ね下落方面の異常のみを抽出できて検知できた。しかし、短期の変化に対応しにくい、局所的な変化に反応しにくいなどの問題が見られた。改善を検討しよう。
感想
Fintechって難しいですね。同じ理論で上昇トレンドも予測できるので実用化できればかなり有用そう。しかし株価のトレンドは急変しがちなのでこのモデルが普遍的に適用できるかはまだわからない。